あなたは、部下から相談を受けたとき何を最初にしますか?
おそらく——話を聞きながら、
すでに「原因は何か」「どう解決するか」を頭の中で組み立てていると思います。
それは決して悪いことではありません。
むしろ、優れたリーダーほどこの「問題解決の反射」が速い。
チームへの責任感と、これまでの経験が積み重なった結果です。
でも、この「善意の速さ」が
チームに予想外の影響を与えていることがあります。
「相談しなくなる」のは、なぜか
コーチングの現場で、こんな言葉をよく聞きます。
「上司に相談しても、すぐ答えが返ってくるから最近は自分で全部やるようにしています」
これを話してくれるのは、
決して反抗的なメンバーではありません。
むしろ自律的に動こうとしている優秀な人です。
それでも、
この言葉の裏には「相談する意味を感じられなくなった」という体験が隠れています。
では、
なぜ「すぐ答えが返ってくる」ことが相談意欲を下げるのでしょうか。
脳は「考える機会」を必要としている
人間の脳には、
自分で考え、結論を出したときに強化される「内発的動機づけ」の回路があります。
心理学者エドワード・デシらの研究が示したように、
外部から答えを与えられ続けると、
内側から湧き出る「やってみたい」という感覚が薄れていきます。
さらに、
認知科学の観点から見ると、
人は「自分が考えた結論」と「他者から与えられた結論」を、
脳の異なる部位で処理しています。
自分で考えた結論のほうが、記憶に深く刻まれ、行動に結びつきやすい。
つまり、
リーダーが先に答えを出してしまうと、
部下の脳は「考える」プロセスをスキップします。
その積み重ねが、
「指示待ち」「自分で動かない」という状態を少しずつ作り出していきます。
1on1が「報告会」になるとき
問題解決モードのリーダーと働くチームでは、
1on1の質が変わっていきます。
最初は「相談」だったものが少しずつ「報告」に変わる。
本音ではなく、表面の情報だけが共有されるようになる。
リーダーは「最近うちのチームはちゃんと報告してくれる」
と感じているかもしれないけれど、
実は「相談できる空気がない」から報告だけになっているのかもしれません。
これは、リーダーへの不信任ではありません。むしろ逆です。
「この人は答えを持っている」という信頼が、
無意識に「自分の考えを持ち込む必要がない」という学習につながっているのです。
悪意はゼロ。むしろ善意。なのに、チームの思考が少しずつ止まっていく。
「聴く」ことが、最大のリーダーシップになる場面がある
では、問題解決モードをやめるべきか——そうではありません。
チームが危機に直面しているとき、素早い判断が必要なとき、
リーダーの問題解決力は本物の武器です。
ただ、1on1という場、そして創造的なチーム作りという点では、
少し違うアプローチをとる必要がありそうです。
それは、「自分が答えを出す前に、相手の内側を知ろうとすること」です。
「それで、あなた自身はどう感じていますか?」
たったこの一言でOKです。
解決しなくていい。答えを出さなくていい。
この問いかけは、
部下に「自分の感覚を言葉にする機会」を与えます。
言語化することで思考が整理され自分なりの答えが見えてくることが多い。
そしてリーダーにとっても、表面の「問題」だけでなく、
その人が今どんな状態にあるかが見えてきます。
チームが自分から動き出すために
「自律的なチームを作りたい」というリーダーの声をよく聞きます。
でも、自律は「任せる」だけでは生まれません。
自律的に動けるメンバーは、「自分で考える経験」を積み重ねた人です。
1on1という場が、その練習場になれるかどうか。
それはリーダーの関わり方次第です。
問題を解決する力と、人の思考を引き出す力
——この二つを使い分けられるリーダーがチームを本当の意味で強くしていきます。
次の1on1で、一つだけ試してみてください。
答えを出す前に5秒待って、「あなた自身はどう感じていますか?」と聞く。
その5秒が、チームの空気をじわじわ変えていきます。
鈴木なお|エグゼクティブコーチ(オランダ・アムステルフェーン在住) 海外駐在・越境キャリアのサポート、エグゼクティブコーチングを提供しています。 初回相談は無料。お気軽にご連絡ください。
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