「経済と環境は対立する」は思い込みだった
先日、私が主催する在蘭日本人のためのコミュニティで月に一度の会を開きました。
今回のゲストスピーカーは、AGCでご活躍中の北谷さん。
テーマは「地球の限界とビジネスの可能性」。
サーキュラーエコノミーの最前線を
オランダで働く実務家から直接学ぶ、贅沢な時間になりました。
この記事では、その場で感じたことと私なりの問いを共有したいと思います。

「環境問題」という言葉の罠
「環境問題」という言葉を聞くと、多くの人はこう感じるのではないでしょうか。
大切なことはわかる、でも経済の話とは別の話だ、と。
これは日本だけでなく、世界的に根強い思い込みです。
環境への配慮はコストであり、成長との二者択一だという発想。
でもヨーロッパは今、この発想そのものを書き換えようとしています。
地球には「使える上限」があります。
ヨハン・ロックストロームが2009年に提唱した
Planetary Boundaries(惑星の限界)という概念は、
人類が安全に活動できる地球システムの範囲を9つの境界として定義したものです。
そして2023年の更新では、そのうち6つがすでに超過していることが示されました。

気候変動、
生物多様性の喪失、
窒素・リン循環の乱れ、
新規化学物質の拡散、
淡水利用の変化、
土地利用の変化
(フロンガスの現象によりオゾン層は回復した!)
これらは環境活動家が訴える話ではなく科学的な事実。
そしてその事実が示すのは、
現在の経済システムそのものが自らの基盤を侵食しているということです。
ドーナツ経済学が示す「新しい問い」
この文脈で注目されているのが、
ケイト・ラワースが2012年に提唱したドーナツ経済学です。

Planetary Boundariesが地球環境の「天井」を定義したとするなら、
ラワースはそこに社会的基盤という「床」を加えました。
食料・水・医療・教育・所得・平等など12項目の社会的ニーズを満たしながら、
地球の生態学的限界を超えない範囲で経済活動を営む。その空間が「ドーナツの中」です。
従来の経済学が「いくら成長したか(GDP)」を問うてきたとするなら、
ドーナツ経済学が問うのは「ドーナツの中に収まっているか」です。
アムステルダム市は2020年、
世界で初めてドーナツ経済学を都市政策の公式フレームワークとして採用しました。
リーダーにとって重要なのはこの問いの転換。
「いくら成長したか」ではなく
「持続可能な範囲で、誰にとっての豊かさを実現しているか」。
この視点の転換が、経営の意思決定の質を根本から変えます。
ヨーロッパの「したたかさ」とは何か
ヨーロッパがこの問題に向き合う姿勢には、独特のしたたかさがあります。
欧州グリーンディールは、三つの危機が重なる中で生まれました。
気候変動による科学的限界の超過。
EUの世界GDPシェアが25%から15%へと低下した経済競争力の問題。
そしてウクライナ戦争に代表される地政学リスク。
この三つが重なったところに、欧州グリーンディールという政策が生まれました。
重要なのは、ヨーロッパが環境への対応を道徳や倫理の話としてではなく、
産業政策と制度設計の話として捉えているという点です。
その視点が、一連の規制を生み出しました。
EU Taxonomyはグリーン投資の定義を統一し、
適合しない事業の資金調達コストを上げる仕組みです。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)は、
気候が自社財務に与える影響だけでなく、
自社が環境・社会に与える影響の開示も義務づけます。
CBAM(炭素国境調整メカニズム)は
EUに輸入される製品に炭素コストを課す国境調整メカニズムで、
欧州以外の企業も無関係ではいられません。
これらは単なる環境規制ではありません。
ルールを作る側になることで世界中の企業をその基準に従わせる戦略です。
(すごい視点ですよね。ルールを創り出してしまう!)
日本企業にとっての「ブラッセル効果」
EU域外にもその影響が波及していく現象を「ブラッセル効果」と呼びます。
欧州に輸出する、あるいは欧州企業と取引のある日本企業にとって、
これはすでに目の前の現実です。
製造業・化学・自動車・繊維——欧州向けビジネスがある全企業が対象になります。
サプライヤーにもScope 3の開示を求める声が
欧州の大手顧客から上がり始めています。
「対岸の火事」と思っている間に
サプライチェーン全体に開示と削減の要求が静かに広がっていく。
オランダにいるとこの変化の空気を肌で感じます。
(日本にいたら、ここまでリアルには感じられなかっただろうと思います。)
「捨てられたもの」を資源にする発想
この日のセッションで
特に印象的だったのは、アムステルダムの実践事例でした。
理念が実践に落ちている事例の豊富さがヨーロッパの強さだと改めて感じました。
Mud Jeans——所有から利用へ

アムステルダムに本社を置くMud Jeansは、
ジーンズをリースするビジネスモデルで知られています。
月額料金で1年間ジーンズを借り、返却するとリサイクルされる。
「モノを売る」から「機能を売る」への転換を
実際のビジネスとして体現しています。
コットン原料の40%はすでにリサイクル素材で、
CO2排出量は業界平均比89%削減、水使用量も87%削減。
アムステルダム市内に店舗があります。
https://mudjeans.com/
De Ceuvel——廃造船所をサーキュラー都市実験場に

De Ceuvelは元汚染造船所跡地を建築家チームが市から10年リースで取得し、
廃ハウスボート17隻をオフィスにリノベーションしたサーキュラーな都市実験場です。
植物による土壌浄化を実施しながら、
ソーラーパネルのマイクログリッドで電力を自給し
アクアポニクス温室でカフェの食材を自給している。
年間35,000人以上が訪問するこの場所は
アムステルダム市のドーナツ経済戦略の生きた実践例です。
「捨てられた土地と廃船」を資源として再定義する。
価値がゼロだった場所に新しい経済圏を作る。
ここで起きていることはビジネスモデルの話であると同時に、
ものごとの見方のパラダイムシフトそのもの。
「廃棄物」を資源として「制約」を市場として捉え直す視点の転換が、
新しい経済圏を生み出しています。
長期的な視点で地球を織り込む経営へ——リーダーへの問い
地球の変化をも織り込んだ長期的な視点で経営することが、
ヨーロッパでは当たり前になりつつあります。
それは理想論ではなく、生き残りのための現実的な選択として。
ESG経営やサステナビリティという言葉が日本でも広がっています。
しかし多くの場合、
それは「対応しなければならないコスト」として捉えられています。
ヨーロッパが示しているのは、その逆の発想です。
地球の限界を制約ではなく
新しい市場設計の起点として捉える。
その視点の転換が、次の時代の競争優位を決めます。
リーダーとしての問いはここにあります。
世界の変化を、自分の言葉で語れるか。
長期的な視点を、日々の意思決定に織り込めているか。
チームにその視点を、どう伝えるか。
情報はすぐに手に入る時代です。
でも、その情報を自分ごととして捉え、
組織や事業にどう結びつけるかを考えるのは、
リーダー自身の仕事です。
「今日持って帰ってほしいのは、
知識ではなく、見方の変化です。
『経済と環境は対立する』という思い込みを、
今日だけでも一度手放してみてください」
この日のゲスト、北谷さんの言葉が残っています。
オランダから世界を見ると、違う景色が見えます。
その景色を日本のビジネスパーソンと共有できる場を
これからも作っていきたいと思っています。
長期的な視点を持つこと。
地球規模の変化を自分ごととして考えること。
そしてそこから自分たちのビジネスや組織の在り方を問い直すこと。
それが今、すべてのリーダーに求められていることだと思います。
一緒に思考を探求しながら、あなたらしいリーダーの在り方を見つけていきませんか。
鈴木なお|エグゼクティブコーチ(オランダ・アムステルフェーン在住) 海外駐在・越境キャリアのサポート、エグゼクティブコーチングを提供しています。 初回相談は無料。お気軽にご連絡ください。
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